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ディスカッション:日本人の壁 [英語留学(ダブリン2000)]

2000年1月14日(金)
授業はdiscussionのやり方。クリスティーナ曰く、ケイトの授業は面白くないという。自分も薄々そう思っていたが、はっきり言うなあ。西洋ではそういうふうにはっきり言うのか。それともイタリア人だけ特別なのか、はたまたクリスティーナが特別なのか。興味は尽きないが、最初は色々と驚いていたものがだんだん日常的になりつつある。いい感じだ。

今日はディスカッションの仕方について教わった。日本語で言うと議論と訳されるのだろうが、そう言うと何か揉めているような印象がある。英語でのディスカッションはもっと必然的で建設的なものだというニュアンスがあるらしい。というのは日本の大学での知識だが。

実際にやってみると、相手の話に反対すると言うのは難しい! 何だか知らないが、相手の言っていることは何でもうなづいて聞いてしまう自分がいる。日本で生まれて日本で育ったから、きっとこうなのだ。自分の中にある壁に気付いた感じだ。

隣に座ったイタリア人、クリスティーナは全然遠慮なく、「But I think ...」(でも私の考えでは)とか「I don't think so」(そうは思わないわ)など平気で言ってくる。金色に染めたショートヘアを逆立たせ、耳と口元に複数のピアスをきらめかせるそのファッションからはかなりの落差を感じる、真面目な態度だ(筆者の偏見によるものだが)。

クリスティーナは反論するだけでなく、筆者の意見をうまくからめ取ってまとめてしまう。よく外国語である英語でそんなことができるものだ。筆者は日本語でそういうディスカッションをしろと言われても、出来ないのではないか。賛成するか反対するか、どちらかで終わってしまいそうだ。大学のイタリア文学の先生いわく、イタリア人は自己主張がとても強いわりにチームワークがいいとのことだったが、その片鱗を見せつけられた感じだ。

しかしそのクリスティーナが、クラスが終わった後にこう言った。

「Her lesson is very boring」( ケイトのクラスってすごく退屈よね)

「Why?」と聞き返すまでもなかった。ケイトの教えるスタイルのことを言っているのだ。1時間目でピーターが教えた文法や表現を使って、我々留学生同士で会話してみなさい、というのがケイトのスタイルである。そして、我々が話しているのを教壇から、にこやかに見守っている。一定の時間が経つと、「ハイそこまで」みたいにして打ち切るのだが、特にフィードバックなどさせず、次の話題に移る。そして同じ事を繰り返すのだ。

しかし筆者にとっては、訛ってはいるがゆっくりはっきりとしたわかり安い英語でしゃべりまくるクリスティーナと闘って…もとい話し合って英語の会話力を磨く絶好の機会だと思っていた。それがクリスティーナにとってboring(退屈)に感じるのは…自分のせいなのか!?

(ゴクリ)

そう生唾を呑み込んだかどうかは覚えていないが、パートナーである筆者がうまくしゃべれないからクリスティーナが退屈しているのでは、と思うとかなり気まずい。しかし、まさかそんな言い方をする人だとは思えない。ここは聞いてみるしかない!

「Why do you think so?」(どうしてそう思うの?)

…というわけで結局「Why」で聞き返す筆者。クリスティーナの答えはこうだった。

「Because she doesn't teach anything! She tells us to talk to each other, but she is just, like, this.」(だって何も教えてくれないじゃない。私たち同士で話せって言うけど、本人はこんな感じだし)

そう言いつつクリスティーナは、へら〜っとした顔を作って、左右にキョロキョロしてみせた。教壇からにこやかな顔で見守っている(=何もしていない)ケイトのマネをしているのだ! そこまではっきり、効果的なジェスチャーまで交えて言われるともう、内容とは別物だが感動するしかない。英語の知識は同じくらいのはずだが、コミュニケーション力ではクリスティーナの方が筆者より遥かに上だ。

これは何か返したい! と思った筆者はさっき考えていたことを率直に言った。

「OK I understand what you mean. ... I thought I am boring you」(言いたいことはわかったよ。 ... 僕が退屈させてたんだと思ってた)

NO!! WHY!!!???

瞬時に目を見開いて大声で反応するクリスティーナ。こっちもびっくりだよ!

「... because I can't speak English very well」(だって僕はうまく英語しゃべれないから)

今考えると、クリスティーナから聞いたら絶望的な台詞だっただろう(普通は「don't speak」だから)。クリスティーナはそれを聞くともう激高して(当時の筆者にはそうとしか見えなかったのだ)、
「No, you speak good English! Also you're very nice!! 」(あんたの英語はいいわよ! それからあんたっていい人なのよ!)と返してきた。ちなみに英語では普通そこはYesで始まるところだが、Yes/Noについては日本人もイタリア人も同じ間違いをするらしい。

それにしても何てはっきり物事を言うんだ。多分100%本心ではなく、筆者の気持ちを気遣ってくれているのだろうが、それでも嬉しい! 

「Thank you! You're also a very nice person」

クリスティーナが帰ってしまう前にそれだけは伝えたかった筆者は、ちょっと照れくさかったが絞り出すようにしてそう言った。クリスティーナは笑顔で「Have a good weekend, see you next week」と言って去っていった。

筆者がこのとき垣間みた「ことばで気持ちを伝える方法」は、残念ながら捕まえる前にすぐどこかに行ってしまい、この後しばらくはディスカッションで悩むことになるのだが、それでもこの体験は記念すべき第一歩だった。自分の中にある「日本人としての壁」に気付き、その向こうがちらっと見えた感じだ。これからよじ上って上に手がかかるまでは遠い道のりになるのだが。

興奮状態だった筆者は学校を出て、しばらく一人で歩いて、ラスマインズの町中のインターネットカフェに入った。学校にも1人30分まで無料でできるインターネットがあったが、無性に一人で心ゆくまでメールチェックしたかったのだ。

期待していた、韓国人の友達からのメールは入っていなかった。日本からも特に何もなかった。しかし、そこには意外な差出人からのメールが一通、入っていた。

Pieter - 英語とは綴りの違うピーター。昨年、ダブリン国際ユースホステルで出会ったベルギー人だ。

「ダブリンに来てるんだって? 驚いたよ。実は僕もベルギーに一度帰ったんだけど、また来てるんだ。今もホステルで働いてる。僕たちが会ったところじゃなくて、テンプルバーの近くにあるところ。家はフラットが見つかって…」

これはまた嬉しいことになったものだ。また今度会いに行くよ、とメール返信した。
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